心とは不思議である。「陽炎(かげろう)稲妻(いなずま)水の月」という言葉があって手に取ることのできないものの例えだが、心もまた触れることが出来ないないばかりか、目にみえるものでもない。
 金子みすゞの詩に「星とたんぽぽ」という名詩がある。その詩の一部をご紹介しよう。

『星とたんぽぽ』

青いお空の底ふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は眼にみえぬ。
   見えぬけれどもあるんだよ。
   見えぬものでもあるんだよ。

 この詩を読んで、真昼の星はまるで心のようだと思った。見えぬけれどもある。見えぬものでもある。それは心でしか感じ取ることのできないものではないだろうか?この詩が読み手に投げかけているものは、心の目で人や物事や宇宙を見つめることの大切さではないだろうか。
 
 例えば無限という言葉を知っていても言葉で説明するのは難しい。それなら、あわせ鏡はどうだろうか?鏡に映る自分が持つ鏡のなかに自分がいて、その自分が持つ鏡に自分がいて無限に果てしなく続く。人の心もまた無限の広がりを持っている。

 いま宇宙は光よりも速い速度で空間自体が膨張、つまりふくらみ続けている。天体望遠鏡で観測して出てきたデータは事実でも実際には想像してみるしかない。宇宙の膨張も真昼の星も心の目でしかとらえることができない。でも、それは未知への扉を開く力にもなる。

ISBN:489456386X 文庫 金子 みすゞ 角川春樹事務所 ¥580

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