クマよ

2004年3月2日 美しきもの
 熊を愛し、その熊によって命を絶たれた写真家の最後の絵本である。この絵本は一編の詩のような美しさがある。星野道夫のどこまでも透明で星の瞬きのような魂が静かに眠っている一冊である。

ISBN:4834016382 単行本 星野 道夫 福音館書店 ¥1,300

「星野道夫さんに捧げる歌」

写真にはあなたがのぞく風景が時空を超えて息をしている

つかの間の極北の夏謳歌する熊の親子を君は捕らえる

ファインダーのぞいて見てるその瞳、何を思いて何を求めて

求めてる幼い頃に探してた美しきもの、いまここにある

広がりを心に抱く意識こそ生きていくのに必要なもの

君の字を初めて見たよ、どうしよう、涙あふれて止まらなくなる

君の血はアラスカの地に還りゆく愛が与えし運命(さだめ)のままに

君のことエンヤの曲を聴きながら書き綴ってた星の降る夜

偶然と呼べない出合い繋がりて君の心に触れている我
いつもより静かなる朝むかえたりカーテンを開け雪景色見る

見なれたる景色はふいに純白の世界に変わる夢見るように

降り積もる雪眺めつつ静謐(せいひつ)な時を愛しみ珈琲を飲む

 同じことを言葉に綴るのと歌を詠むのとでは差異がある。きっかけは短歌の掲示板に、hikeさん(ご自分のHPでは雅鬼さんというHNを使っておられます)が、とても素敵な歌を書き込んでくださって、おりしも雪の降る朝、すっかり刺激されてしまい三首の歌が生まれてきた。

 今日は以前、詠んだ歌にもう一度、目を通してみた。歌はその時の情景や心のありようまでも、よみがえらせるから不思議である。面映い気がするが、少しご紹介したいと思う。

黄昏に細き三日月輝やけり切られた爪の形のように

何気ないひとことゆえに幸せはほんのりとある心のうちに

月面を望遠鏡で見たならば傷つきし跡まざまざとあり

傷つきし跡ありてなお輝やけり月光の美は哀しさを知る

惑星に寄り添うような衛星のありて覚えん星の寂しさ

太陽と月と地球と生命とつながりて在るすべてのものは

ちっぽけな我在りていま星を見る生まれた訳を求めるために

真夜中に「月光」を聴く、もの思う吾の問い探す月のなき夜

かの人の曲を愛しむ我なれば寂しき心また愛しかり

沈黙の世界が生んだ魂の叫びに耳を傾けており

マニュキアを塗りたる我の選びたる曲に染まらん爪の先まで

薄桃が乾く間流る「田園」の旋律に酔う十本の指

「人びとよ抱き合おう」と語りたるシラーの言葉響いており
雪降れば冬ごもりする草も木も春に知られぬ花ぞ咲きける

 古今集の紀貫之の歌です。冬には冬の美しさがあるのだよと、ささやきかけてくるようですね。春という季節を擬人化して詠んでいる点も面白いですね。

 ところで、春夏秋冬、どの季節が一番好きと問われて「冬」と即答する人は少ないかもしれませんが、冬にも冬の良さがあります。昨年の冬、このような歌を詠みました。
 
冴え冴えとふかまりてゆく寒さゆえ美しきかな星も孤独も

 あなたも冬なればこそ美しいもの、探してみませんか?