初めて読んだ江國 香織の小説が「冷静と情熱のあいだ―Rosso」である。わたしは出来るだけ映画を見る前に原作を読むようにしている。
 
 ご存知のように、この小説は同名の辻仁成の「Blu」とコラボレーションされている。「Rosso」では、あおいが「Blu」では順正が主人公で、それぞれ別々の視点から書かれた小説だ。

 辻仁成は「あとがき」にこう記している。

 文通のような連載であった。彼女(江國 香織)から送られてくる原稿をいつも楽しみにしていた。やられた、と思うと、燃えた。あおいの感情の揺れにドキドキした回は、順正にいっぱい情熱を注いだ。

 と、いうことは、つまり物語の筋は江國 香織が握っていたことになる。この2冊を読み終えて「どちらが良かったか?」と訊かれれば、迷わず「Blu」とこたえる。イタリアでの生活をより現実の世界へと引き寄せているのは、間違いなく「Blu」の方である。実際、映画も順正のほうが主人公であった。

 しかし江國 香織なくして「冷静と情熱のあいだ」が生まれなかったのだから、どちらの小説も素晴らしいと言える。辻仁成も「奇跡の貴重な第一歩であったと言えば、ちょっと大げさだろうか。」と興奮冷めやらぬ感じで記している。

 この2冊を読み終えた後では映画は物足らなかった(それは、他の場合もいつも同じなのだけれど)。ただイタリアの中世のまま時が止まったかのような、あの美しい風景だけは映画でしか、または実際にその街を旅した人でしか、確かなイメージが創れないのも事実である。 

ISBN:4043480032 文庫 江國 香織 角川書店 2001/09 ¥480

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